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 即興小説トレーニングにて お題:最弱の会話 必須要素:とんかつ 制限時間:15分 でした。

 別に付き合ってない二人の

 目の前に並ぶ昼食の数々を睨むようにして見つめ、少女はげんなりとした息を吐き出した。ふるふる、と首を横に振って否定的な意思を表す。ない。これはない。お昼からとんかつ定食とか、あるかなしかでいうと本当にない。
 メニューを決めるのがめんどうくさいという理由のみで幼馴染に注文を丸投げした五分前の己に、今すぐに考え直せお前の未来はまっくらだ、と叫びに行きたいが、あいにくとタイムマシンが開発されていない現在、それは不可能なことだった。代わりに、涼しい顔をしてすでにトンカツにソースを欠けている幼馴染を睨みつける。
 相変わらず、箸の動きがやたらと綺麗だ。食べ物を持ち上げるその動きだけで、単純に綺麗だと思わせる、その所作の麗しさにもう一度ため息をつきながら、口を開く。
「ねえ」
「なに?」
「……食べられない」
 なにを言いたいかなんて分かっているだろうに、わざとらしく聞き直してくるのだから憎らしい。揚げたてのトンカツを指さしながら眉を寄せてそう告げれば、ちいさく首を傾げて瞬きをされた。なにを言っているのか分からない、といった風に。わざとらしい。
「食欲がない訳じゃないだろう?」
「食欲はあるけど、私の胃はたぶん消化できないと思うの」
「胃腸薬あげるから」
 食べなよ、と言ってまた一切れをうつくしく口元へ運ぶ幼馴染は、好きなメニューを食べられてご満悦なのだろう。本当に幸せそうに食べる様を、見ているだけなら幸せなのに。同じメニューを食べなければいけないとか、どんな拷問なのだろうか。
「……ちょっと、私の胃の消化力の弱さを甘く見ないで欲しいのだけれど」
「揚げ物くらいでそんな弱音を吐かないで欲しいんだけれど?」
「じゃあ、今日はもうなにも食べなくていい?」
 だって本当に無理だと思うのだ。これを食べたらきっと、夕方くらいまではずっと胃もたれして気持ちがぐるぐるしていると思うし、ようやく消化できたとしても夜くらいだ。疲れていてもう食べ物を口にしたい気持ちではなくなる。それを知っている筈なのに、どうしてこんな重たいメニューを注文してくれたのか。もしかしてなにか怒らせることでもあっただろうか。
 心当たりが多すぎて、原因が特定できない。視線を彷徨わせながら温かい緑茶をひとくち飲むと、すこしだけ反省しているような顔つきで、幼馴染はざくりとトンカツに歯をたてて噛みちぎり、口を何度か動かしてそれを飲みこむ。
 そして、なにかを言った。ちいさな声だった。うまく聞き取れなかったのでなに、と問い返すと、だから、と申し訳なさそうに繰り返される。
「たまには、なんか、ペアっていうか」
「いうか?」
「お揃いがしてみたかった……」
 よく考えれば他のものでもよかったよな、おそろい。ぼそりと呟かれて、少女の視線が食卓の上へと戻る。おそろい。口の中で言葉を転がして意味を磨き上げてから、二人の前に並んだ、同じメニューをしげしげと見つめる。おそろい。同じメニューは、確かに、お揃いといえばお揃いなのだが。
「……マグカップでも買いにいく?」
「そうする……」
「それとも、なにか身に付けるものが?」
 日常的に使える物をそろえた方が、きっと良いに違いない。しばらく会えなくて、久しぶりに会えたことだけで、こんなにひねくれた、可愛いことをしてくれる相手なのだから。ひさしぶり、と会った時にも告げた言葉を囁けば、箸を箸置きに置いてから。うん、とちいさく頷き、幼馴染は微笑んだ。

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